薬剤師の国家資格は就職に強く、年収も安定していると考えられています。ところが変化の激しい現代社会では薬剤師の将来性に不安を抱く人も少なくありません。この記事では、AIの普及や2025年問題が与える影響、職場別の薬剤師の将来性を解説します。
AIの普及と薬剤師の将来性
薬剤師の将来的な働き方や年収に影響を与えると言われているのが、AI技術の普及です。AI技術の普及によって、病院や薬局でもデジタル化が進んでいます。これまで人の手で行ってきた業務を、AIが担うようになってきました。国家資格である薬剤師は高い専門性を持つ職種です。しかしAI技術が発展するに伴い、将来的に薬剤師の仕事がAIに代替されていくのではないかという心配の声も上がっています。
AIが薬剤師の仕事を奪うのかという心配については、AIができる仕事と薬剤師ができる仕事を分けて考えなくてはいけません。
- AIができる仕事
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- 医薬品の在庫管理
- 調剤業務
- 処方解析
- 薬歴管理
基本的にAIが得意とする仕事は、データで情報収集がしやすい分野です。AIは膨大な情報を蓄積・分析することができます。ヒューマンエラーを防ぎ、業務の効率化を促進することにも役立ちます。
薬剤師だからこそできる仕事には、服薬指導や相談への細やかな対応が挙げられます。最新の情報を使いこなすことも、薬剤師に期待されているスキルです。AIが情報を使いこなすには、まずデータをアップデートするなど技術的なコストと時間を要しますので、薬剤師の方が最新の情報に精通していることもあり得るでしょう。
薬剤師はAIと比較すると、専門的知識に基づいた対応力やコミュニケーション能力、臨機応変な知識力が強みになるというわけです。
薬剤師の飽和状態と薬剤師の将来性
薬剤師の国家資格は、一度取得するとその資格が失効することはありません。ただし2年に一度は、所在地、従業地、従事している業務の種別などについて届け出ることが義務付けられています。上記のことに加えて収入も高めで安定していることから、薬剤師は人気が高い職種です。厚生労働省が発表している統計からも、薬剤師の数は増加傾向にあることがわかっています。
- 薬剤師数の変化
- 令和2年12月31日現在における全国の届出「薬剤師数」は 321,982 人
- 令和2年届出薬剤師数を前回と比べると10,693 人、3.4%増加
- 人口10 万対薬剤師数は255.2 人で、前回に比べ9.0 人増加
薬剤師の人数が増える一方で、社会の少子化・高齢化は進んでいます。将来的には患者さんやお客さんが減少する可能性もあり、薬剤師の飽和状態が発生することが懸念されています。
薬剤師の飽和が起きた場合でも安定的に働くためには、薬剤師としての専門的知識を磨き、スキルアップ・キャリアアップを目指すことをおすすめします。
2025年問題と薬剤師の将来性
2025年には団塊世代の人たちが75歳を迎え、後期高齢者となることから、「2025年問題」と呼ばれる社会問題が警鐘されています。日本が超高齢化社会に突入し、医療や介護などの分野に大きな影響を与えることが、薬剤師が理解しておきたい2025年問題のポイントです。厚生労働省は平成18年の時点ですでに、2025年に起こる事態について下記のような見込みを発表しています。
- 2025年問題と超高齢化の進展
- 高齢者世帯は2025年には、約1,840万世帯に増加すると見込まれる
- 認知症高齢者数は、2025年には約320万人に達すると見込まれる
- 年間死亡者数は、2025年には約160万人(うち 65 歳以上約140万人(に達すると見込まれる
このような変化によって、薬剤師の負担増が予想されます。医療や介護を必要とする人が増え、医療現場にかかる負担やニーズが増えると考えられているのです。たとえば認知症や生活習慣病、がんなど、加齢とともにリスクが上昇する疾患があります。超高齢化社会では、こうした疾患に関する知識の習得が重視されるでしょう。
薬剤師も社会の変化に合わせて、今後のスキルアップの計画やキャリアプランをしっかりと考えておくと安心です。
調剤補助員のピッキング・一包化と薬剤師の将来性
厚生労働省は2019年4月に、一定の要件を満たした場合は薬剤師以外がピッキングや一包化をすることを認めました。このことによって、調剤補助員もPTP包装シートなどのピッキングや薬剤の一包化ができるようになりました。調剤補助員が薬剤師の仕事をサポートすることで、薬剤師の業務効率化や患者対応のスピード向上などメリットが得られます。一方で、薬剤師一人当たりの仕事量が減ったということは、薬剤師の平均給与低下につながるとも考えられています。
ただし欧米と比べると、日本ではファーマシーテクニシャン制度が推進されているとはいえません。調剤補助員が薬剤師の仕事をサポートするからといって、直接的に薬剤師の給与や待遇を左右する心配は、現時点ではあまり考えられないでしょう。
しかしながら、調剤補助員がピッキングや一包化を担当することの狙いには、薬剤師により専門的な仕事を担当させ、医療のレベルアップや患者対応に力を入れたいという目的があります。これからの薬剤師には、専門性の向上が強く求められていると言えるのです。
薬剤師の将来性は職場で大きく変わる?
ここまでで社会の変化が薬剤師にもたらす影響を解説してきました。この章では、薬剤師の職場ごとの将来性を解説します。ドラッグストア、調剤薬局、病院(医療施設)、製薬会社では、これからの薬剤師の働き方にどんな違いが考えられるのでしょう。
職場別の将来性 【ドラッグストア】
ドラッグストアには、一般薬のみを扱うドラッグストアと処方箋を扱う調剤薬局併設型ドラッグストアがあります。ドッグストアの大きな特徴は、医薬品だけでなく化粧品や生活雑貨も扱うなど、人々の生活と密接である点です。都市部のみならず、ローカルな地方でもドラッグストアの店舗数は拡大が見られます。
超高齢化社会を迎えることを考えると、調剤薬局併設型ドラッグストア、地域密着型のドラッグストアや店舗数が多いチェーン店は今後も高い需要を維持することが予想されます。
- ドラッグストアの将来性
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- 地域密着型のドラッグストアは成長傾向にある
- 調剤併設型のドラッグストアは増加が見込まれる
- 医薬品以外の商品の知識も必要
職場別の将来性 【調剤薬局】
薬剤師の就職先として、調剤薬局の人気は高い傾向がみられます。令和2年のデータによると、医療施設に勤務する薬剤師が61,603人であるのに対し、薬局に勤務する薬剤師は188,982人で、その差がとても大きいことがわかります。
薬局で働く薬剤師は年々増加していますが、少子高齢化によって人口減少が進んだ場合は薬局の数も減っていくおそれもあります。同時に薬剤師の飽和という問題も発生する可能性が考えられます。
調剤薬局では、ドラッグストアと比べると扱っている商品は多岐に渡ってはいません。そのため薬価や調剤報酬など制度の変化を受けやすく、薬局の収益や薬剤師の給与に影響が出ることもあるでしょう。
- 調剤薬局の将来性
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- 薬局で働く薬剤師の増加率が高い
- 調剤薬局は薬剤師の飽和が起こる可能性が高め
- 薬価や調剤報酬など制度の変化を受けやすい
職場別の将来性 【病院(医療施設)】
超高齢化社会では病院に罹る患者さんの数が増えることが予想されるため、病院で働く薬剤師の需要は比較的安定することが見込まれます。病院の収益は薬以外からも得られていますので、薬価や調剤報酬などの影響を受けにくいというのも特徴です。
ただし、病院で働く薬剤師に求められるスキルは高くなることも予測されます。たとえば、高齢の患者さんは来院することが難しい場合も多く、在宅医療のニーズが増加すると考えられています。その場合、在宅医療に関するスキルを習得した薬剤師が求められるようになるでしょう。
これからの時代に薬剤師が病院で活躍するためには認定薬剤師制度を活用し、在宅医療やがん、糖尿病など、各疾患に関する専門性を高めるのもおすすめです。
- 病院薬剤師の将来性
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- 病院(医療施設)で働く薬剤師の需要は安定傾向にある
- 薬価や調剤報酬など制度の影響を受けにくい
- 在宅医療など専門分野に関する高いスキルを持った薬剤師が重宝される
職場別の将来性 【製薬会社】
製薬会社で働く薬剤師は減少傾向が見られます。これは国内でジェネリック医薬品の製造・販売が進んだ結果、以前と比較すると製薬会社での新薬開発が減ってきたことが影響しています。
さらに製薬会社は薬価改定の影響も受けやすく、利益率が下がるケースが見られます。企業の収益や薬剤師の年収も変化する可能性が高いでしょう。
- 製薬企業の将来性まとめ
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- 新薬開発の需要は減少傾向にある
- 薬価改定によって企業の収益や薬剤師の給与に影響が出やすい
薬剤師のスキルアップ・キャリアチェンジにおすすめの資格
これからの時代、AIの発展や薬剤師の飽和、2025年問題などを迎える中で、安定的に活躍する薬剤師でいるためにはスキルアップ・キャリアアップが欠かせません。特におすすめなのは、薬剤師として働きながら他の資格を取得する「ダブルライセンス」です。
こちらの記事では、薬剤師のダブルライセンスにおすすめの資格を紹介しています。これからのキャリアデザインを考えながら、ダブルライセンスを検討してみてはいかがでしょう。
かかりつけ薬剤師
要件を満たして「かかりつけ薬剤師」になることもおすすめです。
- かかりつけ薬剤師とは
- 1人の患者さんに対して1人の担当薬剤師がついて、服薬管理や健康管理を行う制度。夜間や休日も24時間体制で患者さんに対応。
かかりつけ薬剤師は医療機関との連携も期待されており、地域包括ケアや在宅医療を担う人材でもあります。超高齢化社会において、きめ細やかな医療サービスを提供できるかかりつけ薬剤師は頼れる存在として重宝されるでしょう。
コミュニケーション能力を上げる
医薬品に関する専門知識の習得も大切ですが、これからの時代の薬剤師はコミュニケーション能力も欠かせません。特に、患者さんへのホスピタリティは磨いておきたいスキルです。薬剤師は医療分野の仕事ですが、サービス業としての側面も併せ持っています。薬について薬剤師に質問したり、アドバイスをもらいたいと考えている患者さんも少なくありません。患者さんとのコミュニケーションにおいて必要とされる、傾聴や接遇について学習するのもおすすめですよ。
マネジメント能力を磨く
薬剤師の数も患者さんの数も増加することが見込まれる中、満足度の高いサービスを提供するには、マネジメント力の高い薬剤師の存在が必要です。マネジメント能力を磨くと職場に貢献できるだけでなく、管理薬剤師としてキャリアアップしたり、自分で薬局を経営したりする際に役立つでしょう。
おわりに:薬剤師としての将来性はスキルアップや職場選びも重要!
AIや2025年問題など、薬剤師を取り巻く状況はこれからも変化していくことは間違いありません。患者さんの健康のためにも薬剤師はなくてはならない存在ですので、ご自身のキャリアプランを考えながらスキルアップしていきましょう。
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