薬剤師の転職先といえば薬局やドラッグストア、病院が多いものですが、異業種転職を目指す人もいますよね。薬剤師の異業種転職は難しいと言われていますが、どのような業界や職種でのキャリアプランが考えられるのでしょう。薬剤師の異業種転職を成功させるポイントも解説しますので参考にしてくださいね。
- 薬剤師が異業種に転職するメリット
- MR(Medical Representatives:医薬情報担当者)
- 品質管理・保証
- PV(ファーマコヴィジランス:安全性情報管理)
- 研究職(製薬会社・食品メーカー・化粧品メーカーなど)
- CRC(Clinical Research Coordinator:治験コーディネーター)
- CRA(Clinical Research Associate:臨床開発モニター)
- 公務員薬剤師
- 麻薬取締官
- 自衛隊の薬剤官
- 薬科大学・薬学部の教員
- 医療コンサルタント
- 弁理士
- 学校薬剤師
- その他の異業種転職先
- 薬剤師の異業種転職が難しい理由
- 薬剤師の異業種転職を成功させるために必要なことって?
- おわりに:薬剤師の異業種転職のキャリアプランは豊富!
薬剤師が異業種に転職するメリット
薬剤師が就職する場合、調剤薬局、ドラッグストア、病院(医療施設)などに就職するケースが多くを占めます。ただし薬剤師の資格や経験を活かすことができる仕事は、ほかの業界や職種でもあります。
薬剤師が調剤薬局、ドラッグストア、病院(医療施設)以外の異業種に転職することには、次のようなメリットが挙げられます。
- 調剤や服薬指導以外のスキルや経験が身につく
- 仕事内容や人間関係が変化し、刺激になる
- これまでとは異なるアプローチで社会貢献できる
- 収入アップや高収入を目指せる
薬剤師としてキャリアを積む場合、調剤業務と服薬指導のスキルアップは重要です。調剤薬局や調剤薬局併設型のドラッグストア、病院において、患者さんへの調剤と服薬指導が主な仕事となります。異業種に転職することで、調剤業務と服薬指導以外のスキルと経験を得るチャンスが増えます。
薬剤師としてひとつの職場でスキルアップやキャリアアップを目指すキャリアプランもよいですが、転職でキャリアの選択肢を増やすことも可能です。特に異業種に転職すると仕事内容が大きく変わり、得られる知識や経験の幅が広がります。薬剤師以外の人と一緒に働くことも増え、大きな刺激になるでしょう。
年収面でも異業種転職がメリットをもたらすことがあります。薬剤師の年収は日本全体の平均年収を上回ります。ただし薬剤師の資格と経験を活かして異業種転職に成功すると、さらなる収入アップにつながることがあります。業界や職種によっては年収1000万円超えを叶えることができます。
次章からは異業種転職を目指す薬剤師におすすめの職種について、仕事内容や年収の目安、求められるスキルを紹介していきます。
MR(Medical Representatives:医薬情報担当者)
薬剤師は、製薬会社のMR(医薬情報担当者)に転職するというキャリアプランもあります。MRは製薬会社に就職し、営業兼広報の役割を担当します。MRの主な仕事は、医師や薬剤師に対して、製薬会社の商品である医療用医薬品の品質・効能・安全性などの情報を提供し、また医師や薬剤師からの医薬品に関するフィードバックを収集することです。
MRは薬剤師の資格が必須の職種ではありません。大学も薬学部卒である必要はなく、文系出身のMRも多く活躍しています。ただし薬剤師は医薬品に関する知識を習得していますので、MRとして医薬品の品質・効能・安全性を宣伝していくときの強みになるでしょう。
仕事内容
- 製薬会社の製品である医薬品の品質・効能・安全性などの情報を医師や薬剤師に提供する
- 医薬品に関する評価担当者として、医療現場からフィードバックを受け取る
- 正しい医薬品情報を提供し、医薬品の適正使用を推進する
- 情報を伝達することで、医薬品の問題点や医薬品による被害を最小限に抑える
- 情報の伝達を通して、製薬会社の医療用医薬品開発をサポートする
年収の目安
- 年収600万~700万円前後が目安
- 1,000万円以上の収入を得ているMRもいる
- 営業成績によってインセンティブが得られる会社が多いが、完全歩合制の会社もある
転職のメリット
- 福利厚生が充実している
- 土日休みを取りやすい
- 薬剤師として培った医薬品の知識を活かすことができる
- 医薬品の情報提供を通して医療に貢献できる
転職で求められるスキル
- 医師や薬剤師に営業・広報活動をするためのコミュニケーションスキル
- 新薬の知識を習得する学習意欲
- 外回りのために車を運転する自動車普通免許
- 成果主義の職場でも仕事をこなしていくメンタルの強さ
品質管理・保証
医療系の製薬会社などで設けられている、品質管理・品質保証という職種があります。品質管理・品質保証は、医薬品や医療機器を生産する工程において、原材料の品質チェックから製造、出荷後のフォローまでのさまざまな工程で製品の安全性や有効性を管理します。品質管理・保証は生産現場の工場など各部門と連携し、品質維持を保ちます。
医薬品の欠陥や異常は人命に関わりますので、品質管理・保証はとても重要な役割でありプレッシャーのかかる仕事といえます。品質管理・保証の仕事に就くために薬剤師の資格は必須ではありません。ただし医薬品や薬学に関する幅広い知識を持つ薬剤師は、知識を活かして品質管理・保証の仕事で活躍することができるでしょう。
仕事内容
- 原材料の品質検査・科学試験
- 品質維持システムの構築
- 文書管理
- ガイドラインやQMS(品質マネジメントシステム)との適合性調査
- 医薬品の生産工程における品質試験の実施
- 出荷時の品質検査
- 異常が発生した場合の要因分析
- 販売後のクレーム対応・原因調査
- 納品物の検査
- 担当部署への報告・改善提案
年収の目安
- 年収500万~600万円が目安
転職のメリット
- 福利厚生が充実している
- 土日休みを取りやすい
- 残業が少ない
- 患者さんや消費者が医薬品を服用する際の安全を守ることができる
- 製薬会社のほか、CRO(受託臨床試験機関)でも求人を出している
転職で求められるスキル
- 高い英語力(特に医薬品に関する専門用語に関する英語力があると尚よい)
- 医薬品や薬学に関する正しい知識
- 医薬品等品質管理基準(GMP)に関する知識
- 社内の各部門と連携するコミュニケーションスキル
- 関連部門と連携するためのチームワーク力
PV(ファーマコヴィジランス:安全性情報管理)
PV(ファーマコヴィジランス)とは、製薬会社などに所属して医薬品の安全性を監視する仕事です。ファーマコヴィジランスは「pharmaco(薬の)」と「vigilance(監視)」という単語を使った造語で、日本語では「医薬品安全性監視」などと訳されています。
PVが医薬品の情報を収集、記録、評価を行うことによって、副作用など医薬品の健康被害のリスクを最小限に抑えることが可能になります。そのため、PVは臨床試験では把握しきれなかった医薬品の影響について、情報を収集して正しく評価しなくてはいけません。
PVは情報を収集しますが、MRや医薬品の開発担当者と連携して情報を広く集めます。情報を評価した後は、それらの情報を医療施設や医療従事者に伝えます。情報は厚生労働省に報告されることもあります。
PVになるために必須の資格はありません。ただし業務では医学と薬学の知識が必須となります。医薬品のプロフェッショナルである薬剤師、看護師や臨床検査技師は、PVになった後に知識や経験を活かすことが期待されます。知識や経験があることで、医薬品によって発生した有害事象の経緯、患者さんの状態や背景、添付文書の情報などを適切に読み取ることができるでしょう。
近年は医薬品の安全管理のニーズが高まっており、PVの将来性は安定の傾向が見込めます。ただし幅広い知識の習得や語学力が必要で、スキルアップが欠かせない仕事であることを理解してください。
仕事内容
- 医薬品を服用した患者さんに生じた、薬の影響に関する有害事象を収集する
- MRや医薬品の開発担当者と連携し、情報を収集する
- 医薬品に関する国内外からの報告や問い合わせに対応する
- 副作用情報を確認する
- 情報を適正に活用し、医薬品の適正使用を推進する
- 情報を評価し、会社や厚生労働省に報告する
年収の目安
- 500万~600万円が目安
- 未経験の場合は400万円台の求人もある
- 経験を積めば800万~1000万円の高収入を目指せる
転職のメリット
- 福利厚生が充実している
- 土日休みを取りやすい
- 薬剤師として得た知識と経験を活かすことができる
- ニーズが高く、将来性が安定している
- 副作用から患者さんを守るというやりがいを感じられる
転職で求められるスキル
- 医薬品に関連する法律知識を習得している
- 薬学、生物学、化学、バイオ、農学、疫学、統計学などの理系知識
- 情報を正確に扱い、データにまとめる能力
- 海外の論文や医学情報誌から情報収集するための語学力
- 社内の各部門や医学専門家と連携するためのコミュニケーションスキル
- 報告期限に間に合うように情報や文書を処理するスケジュール管理能力
研究職(製薬会社・食品メーカー・化粧品メーカーなど)
薬剤師の有資格者は、研究職として製薬会社・食品メーカー・化粧品メーカーなどで働くことも可能です。研究職では、新たな知識や法則の発見や証明を目指す「基礎研究」、基礎研究による成果を製品やサービスに活用する「応用研究」があります。
研究結果が成果として現れるまでは長い年数がかかるのが特徴です。特に基礎研究ではその傾向が強く、研究部門は会社にとって将来への投資という側面も持ちます。
製薬会社・食品メーカー・化粧品メーカーの研究職では、次のような研究を行います。
基礎研究では、医薬品に利用できる新しい成分の発見、病気の原因解明などの研究を行います。応用研究では基礎研究で発見された知識や法則を活かし、新しい医薬品やサービスに役立てます。
基礎研究では、食品素材など主に食に関する知識や法則の発見・実証を行います。応用研究では、基礎研究で発見された知識や法則を活かし、新しい製品やサービスに役立てます。基礎研究と応用研究のほか、製品開発に近い研究職を設けている会社もあります。
基礎研究では、化粧品に配合する有効成分の研究や皮膚科学など専門分野ごとの研究を行います。応用研究では基礎研究で発見された知識や法則を活かし、新しい製品やサービスに役立てます。開発部門では新製品や製品リニューアルのための処方(成分の組み合わせ)を決めたり、薬事申請を行います。
企業の研究職の中でも、製薬会社は基礎研究が重視される傾向が高いです。医薬品の研究に携わりたい人は製薬会社の研究職を目指すのがおすすめです。ただし近年は食品メーカーがサプリメント開発に力を入れていたり、精密化学メーカーがサプリメントや化粧品の開発を手がけているなど、研究を担う企業の幅も広がっています。つまり患者さんや人々の健康を支える研究職を目指す場合、製薬会社以外の選択肢もあるというわけです。
薬剤師から研究職にキャリアチェンジするためには、博士号を取得していることが理想的です。大学や大学院、薬剤師として働いている間にスキルアップをしておきましょう。研究職への転職活動では、これまでにどんな研究をしていたか、どのように知識を磨いてきたかをアピールする必要があります。
会社における研究部門は、新製品開発や高品質の製品を提供するための重要な部門として位置付けられています。そのため採用条件が厳しめで競争率も高いですが、年収の水準は高くなります。研究活動を仕事としたい人にはおすすめの職種です。
仕事内容
- 実験
- 分析・検証・メカニズム解明
- データの収集・国内外の論文の精読
- 開発部門や営業部門、広報部門などとの連携
年収の目安
- 700万円~900万円が目安
- 食品メーカーの場合は500万円台のこともある
- 外資系の製薬会社の研究職の場合、年収1,000万円超えも期待できる
転職のメリット
- 福利厚生が充実している
- 土日休みを取りやすい
- 高収入を目指しやすい
- 専門分野に関するスペシャリストになることができる
- 社会への貢献度が強く、やりがいを感じやすい
転職で求められるスキル
- 博士号を取得していること
- 研究チームや提携企業と協力するコミュニケーションスキル
- 研究を長期間にわたって続ける根気強さ・粘り強さ
CRC(Clinical Research Coordinator:治験コーディネーター)
CRC(治験コーディネーター)は、治験を依頼する製薬会社や治験を実施する医療機関と連携し、治験を進めることを仕事とする職業です。
製薬企業などが開発した新しい有効成分を薬として使用するためには、治験という臨床研究を行い、有効成分の有効性や安全性を検証しなくてはいけません。治験では製薬会社と医療機関、患者さんが協力して検証を進めます。CRCはそうした連携がスムーズに進むようにサポートすることを仕事としています。
CRCになるには、大きく分けて2つの方法があります。
- 治験施設支援機関(SMO:Site Management Organization)に所属し、CRCとして医療機関へ派遣される
- 大学病院や研究センターなどの医療機関に薬剤師として所属し、院内治験コーディネーターとなる
CRCになるために必須の資格はありません。保有していると就職で有利になる資格としては、薬剤師、看護師、臨床検査技師などの医療系資格があります。
仕事内容
- 治験内容の説明
- 治験実施計画書(プロトコル)の読み込みと情報収集
- 治験業務フローの作成
- 治験に関するミーティングの補助
- 関連部門との連携・調整
- 治験で使用する検査機器の管理
- 治験の被験者募集(スクリーニング)
- 治験の説明文書や同意書などの作成
- 治験担当医の補助
- 治験依頼企業への症例報告書(CRF)、治験終了報告書の作成
- 副作用など有害事象への対応
- 被験者のスケジュール管理、相談相手やサポート役
年収の目安
- 400万~500万円が目安
- 経験やキャリアを積めば年収1,000万円超えも目指せる
転職のメリット
- 福利厚生が充実している
- 土日休みを取りやすい
- 新薬開発のサポートを通して社会貢献できる
- 患者さんと直に接することができ、やりがいを感じやすい
転職で求められるスキル
- 医療系資格(必須ではない)
- 臨床経験(必須ではない)
- 疾患や新薬に関する学習意欲
- CRC関連資格(必須ではない)
- 文書作成能力
- スケジュール管理能力
CRA(Clinical Research Associate:臨床開発モニター)
CRAとは、治験の実施を支えるモニターを仕事とする職種です。医薬品の臨床開発である治験は医療機関で実施されます。CRAは、治験が治験実施計画書に基づいて正しく行われているかをチェックします。医療機関と製薬会社との間に立ち、適正な治験業務を推進する役目を担っています。
CRAになるには、2つの方法があります。
- 製薬会社の開発部門に所属する
- 臨床試験を受託するCRO(Contract Research Organization)に所属する
ただし製薬会社ではCRAを採用しないこともあり、CROに委託していることが少なくありません。そのためCRAの求人は少なく、競争率が高い職種です。一方でCRAになるための必須資格はありませんので、企業やCROが求める条件を満たす人材であればCRAになるチャンスはあります。高い専門知識が求められる職種ですので、年収も高めに設定されています。異動や転勤の可能性が低く、安定的に働きたい人におすすめの職種です。
仕事内容
- 治験実施計画書の確認と治験実施内容のチェック
- 治験に携わる医療従事者の選定
- 治験の実施依頼と契約締結
- モニタリング業務(治験の進捗管理、症例データの収集など)
- 治験の終了報告
- 症例報告書(CRF)や治験薬の回収
- 有害事象の対応
年収の目安
- 450万~600万円が目安
- 経験とキャリアを積めば800万円~1000万円の高収入を目指せる
転職のメリット
- 福利厚生が充実している
- 土日休みを取りやすい
- 高収入を目指せる
- 異動や転勤の可能性が低い(外回り、出張は多い)
- 医薬品開発のサポートを通して社会貢献できる
転職で求められるスキル
- 医学や医薬品に関する専門知識
- 薬剤師、看護師、臨床検査技師の資格保有者(必須ではない)
- データを正確に扱う能力
- スケジュール管理能力
- 外回りのための普通自動車免許
公務員薬剤師
薬剤師の資格を活かし、国や自治体で働く公務員として働くというキャリアプランもあります。公務員薬剤師は、国家公務員または地方公務員に分かれます。
- 国家公務員としての公務員薬剤師
- 厚生労働省の総合職で採用され、「薬系技術職員」として行政や薬事、研究開発、食品安全、化学物質、医療・経済などの分野で業務を行います。国家公務員の薬剤師のキャリアとして、麻薬取締官もあります。
- 地方公務員としての公務員薬剤師
- 地方公務員試験に合格後、薬剤師の資格を活かすことを期待され、公立病院や薬局、保健所、役所、研究所などに配属されます。
公務員試験には受験資格で年齢制限が設けられていますので、薬剤師から公務員へキャリアチェンジしたい場合は年齢制限に気をつけましょう。
国家公務員・地方公務員として働く場合、自身の希望通りの業務を担当できるとは限りません。たとえば国家公務員の場合は薬事や行政など臨床の現場から離れた業務を担当することもあります。やりたい仕事や携わりたい業務が明確に決まっている人にとっては、その希望が叶わない可能性もあるのです。
また、異動や転勤があること、副業が禁止であることがデメリットに感じられる人もいるでしょう。初任給は低めであることも多く、最初のうちは収入面に不安を感じることもあり得ます。
しかしながら、国家公務員・地方公務員ともに安定性が高く、毎年昇給されるため収入も比較的高めです。採用枠は多くはありませんが、採用された後はやりがいを感じながら仕事で活躍できるでしょう。
仕事内容
- 薬剤師行政関連業務(国家公務員)
- 薬事関連業務(国家公務員)
- 食品の安全性確保(国家公務員)
- 研究開発促進(国家公務員) など
- 病院勤務(地方公務員)
- 保健所や衛生研究所勤務(地方公務員)
- 行政勤務(地方公務員) など
年収の目安
- 500万円~600万円が目安
- 勤務年数や役職に応じてさらなる高収入を目指せる
転職のメリット
- 福利厚生が充実している
- 土日休みを取りやすい
- 手当の種類が多い
- 収入が比較的安定している
- 毎年の昇給があるため収入が上がりやすい
転職で求められるスキル
- 試験の受験資格を満たすこと
- 公務員試験を合格する能力
- 地域や国のために貢献する意欲
- 薬剤師としての専門知識
公務員薬剤師として活躍するためには、薬剤師として働く間にダブルライセンスを取得しておくのもおすすめです。たとえば薬剤師のダブルライセンスとしておすすめの「食品衛生監視員」も、公務員薬剤師の一種です。
麻薬取締官
麻薬取締官とは、厚生労働省に所属する国家公務員です。規制薬物である違法な麻薬の流通などを取り締まる仕事を行います。麻薬取締官は、全国12の主要都市にある厚生労働省の出先機関や厚生局の麻薬取締部に所属し、日々の仕事に従事します。
麻薬取締官は薬物に関する専門知識が必要なため、多くの薬剤師資格保有者が麻薬取締官として活躍し、麻薬撲滅に貢献しています。麻薬取締官は警察官ではありませんが、「特別司法警察職員」としての権限が認められており、職務内容や状況によっては警察官のような武器の所持が認められているのも特徴です。
麻薬取締官は国家公務員ですので、年収は毎年昇給することが見込まれ、高収入を目指せます。ただし職員の定員数が少なく、採用は狭き門です。
仕事内容
- 規制薬物の密輸や密売の取り締まり
- 規制薬物に関する捜査・取調べ
- 規制薬物に関するインターネット上の捜査
- 病院や薬局、製薬会社に対する、医療麻薬の適正使用の監督・指導
- 押収した規制薬物の鑑定
- 規制薬物に関する啓発・相談活動
年収の目安
- 600万~650万円が目安
- 初任給はこれほど高くない
- 勤務年数が長くなるにつれて年収がアップする
転職のメリット
- 福利厚生が充実している
- 基本的には土日休みを取りやすい(捜査などによっては出勤の必要あり)
- 手当の種類が多い
- 違法麻薬の撲滅を通して社会貢献できる
転職で求められるスキル
- 国家公務員一般職試験受験資格を満たすこと
- 薬剤師の資格保有者であること(必須ではない)
- 法学に関する知識があること
- 正義感や責任感が強いこと
- 体力があること
- メンタルがタフであること
- 普通自動車免許
自衛隊の薬剤官
薬剤官とは、自衛隊に所属して働く薬剤師です。自衛隊というと男性の職業というイメージが強いかもしれませんが、女性の薬剤官も活躍しています。
薬剤官になるには自衛官の採用試験に合格し、「薬剤科幹部候補生」として自衛隊に入隊するところから始まります。入隊後は幹部候補生として教育を受け、陸・海・空のいずれかの自衛隊の衛生分野に配属され、幹部自衛官となります。
薬剤官の配属先はさまざまで、たとえば下記の配属先があります。
- 自衛隊病院
- 駐屯地の薬剤科
- 駐屯地などへの補給組織
- 衛生学校の教官
- 衛生部隊 など
自衛官は基本的に異動や転勤の可能性が高く、ひとつの場所で長く働きたい人にとってはデメリットに感じられるでしょう。
配属先によって仕事内容は異なりますが、担当する業務は薬剤師としての仕事だけではありません。薬剤師としての仕事、自衛官としての仕事、衛生分野の幹部自衛官としての仕事を担当します。
仕事内容
- 自衛隊病院や駐屯地医務室での調剤業務や服薬指導
- 医薬品や衛生資材の調達・管理
- 駐屯地や寄港地での水質検査や食料品の衛生管理
- 集団感染が起きた場合の医薬品管理
- 災害派遣
- 国際平和協力活動
- 衛生行政機関における薬務行政
- 自衛隊学校の教官業務や研究員業務
年収の目安
- 自衛官の初任給は24万7500円(令和3年1月1日時点)と定められている
- 隊員の区分・階級・職務に応じて給与は変わる
- 経験や役職次第で高収入を目指せる
転職のメリット
- 福利厚生が充実している
- 自衛隊ならではの手当を受けられる
- 高収入を目指せる
- 安定した収入を得られる
- 薬剤師としての業務のほか、幅広い仕事を経験できる
- 災害時の人命救助などを通して社会貢献できる
転職で求められるスキル
- 薬学に関する高い専門知識
- 体力があること
- メンタルがタフであること
- 臨機応変な対応力と判断力
- 転勤可能なこと
薬科大学・薬学部の教員
薬剤師としての経験や知識を活かして、薬科大学や薬学部の教員になることも目指せます。
薬科大学・薬学部の教員になるには、薬学部の大学と大学院を卒業した後、各大学の教員募集に応募し、採用されるという流れが一般的です。
薬科大学・薬学部の教員になるために、薬剤師の資格は必須ではありません。ただし薬剤師の資格保有者であることを応募条件や採用条件として定めている大学もあります。博士号の取得も必須ではありませんが、薬科大学や薬学部の教員には高い専門知識が求められますので、博士号を必須とする求人が多いでしょう。また、教員免許を取得していなくても大学の教員になることはできます。
薬科大学や薬学部の教員は、求人数が少なく狭き門です。教員としてのキャリアアップは、「助手→助教→講師→准教授→教授」という順ですが、年功序列のようにキャリアアップするわけではありません。各大学によってキャリアアップの条件は異なりますが、いずれの大学でも教員のキャリアアップは簡単ではありません。キャリアアップの途中で他の大学へ移ったり、民間企業に転職する教員もいます。
仕事内容
- 講義
- 実務実習の指導
- 試験問題の作成・採点・成績評価
- 学生の研究指導
- 研究室の運営
- 自身の研究活動・論文執筆
- 大学の運営関連業務
年収の目安
- 600万円~800万円が目安
転職のメリット
- 福利厚生が充実している
- 土日休みを取りやすい
- 夏季休暇や冬季休暇を取りやすい
- 高収入を目指せる
- 研究活動ができる
- 未来の薬剤師を育てるやりがいを感じられる
転職で求められるスキル
- 薬学部の博士号
- 薬剤師の資格
- 薬学や医学に関する高い専門知識
- 医療機関での実務経験
- 知識を学生に伝えるためのコミュニケーションスキル
- 学生を成長させるための指導力
医療コンサルタント
医療コンサルタントとは、医療系の民間企業や医療機関に対して経営に関するコンサルティングを行う職種です。医療コンサルタントの主なクライアントは次の2つです。
- 医薬品メーカーや医療機器メーカー
- 医療機関
企業や医療機関の収益を挙げ、継続して経営活動を行うことができるように、医療コンサルタントは改善案や戦略を提案します。
医療コンサルタントのニーズは近年高まっており、未経験者でも高収入を目指せるのが魅力です。また、医療コンサルタントとして活躍をするうちに次のキャリアプランが拓けてくることもあります。たとえば民間企業からヘッドハンティングの誘いを受ける、コンサルタントとして独立するなど、キャリアプランが広がる可能性が高いのもメリットです。
ただし高い専門性が求められる職種のため、日々の勉強や情報収集が欠かせません。多忙になる可能性も高く、企業や病院の経営に携わるというプレッシャーもあるでしょう。
仕事内容
- 新製品の開発体制構築支援
- 新規事業立ち上げ支援
- M&A戦略支援
- アライアンス支援
- 医療機関に対する経営改善コンサルティング
- 医療機関に対する業務改善コンサルティング
年収の目安
- 600万円~800万円が目安
- 経験とキャリア、実績によっては年収1000万円超えも目指せる
転職のメリット
- 福利厚生が充実している
- 基本的には土日休みである(クライアントによっては休日が変わる可能性あり)
- 高収入を目指せる
- 独立などさらなるキャリアプランが広がる
- ニーズの高い業界で安定的に働くことができる
転職で求められるスキル
- 医療機関での業務経験
- 医療業界に関する知識
- 薬剤師や看護師など医療系資格(必須ではない)
- コンサルタント関連資格(必須ではない)
- 経営に関する知識
- クライアントの話をヒアリングするコミュニケーションスキル
- 問題点を抽出する課題発見能力
- 課題を改善するための課題解決能力、提案力
弁理士
弁理士とは法律家の一種で「理系の弁護士」とも呼ばれています。弁理士は主に知的財産法に関する手続き業務を取り扱います。主なクライアントは法人企業もしくは個人事業者で、知的財産権を巡る紛争解決や特許申請などの依頼を受けます。弁理士は主に、特許事務所に勤務する、企業内弁理士として勤務する、独立開業するという働き方があります。
薬剤師が弁理士に転職すると、医薬品メーカーや医療機器メーカーの特許申請や知的財産に関する業務で活躍できるでしょう。
弁理士になるには国家試験である弁理士試験に合格する必要があります。弁理士試験は非常に難易度が高く、資格取得には勉強時間の確保が必要です。弁理士試験の受験資格には学歴や職務経験などの制限がありません。つまり薬剤師の資格保有者でなくとも弁理士を目指すことはできます。ただし薬剤師の資格保有者は、弁理士試験の論文式試験で選択科目「理工Ⅲ:化学」の免除を受けられます。
弁理士は高い語学力を求められることがあります。紛争相手が海外企業や海外の事業者の可能性もあり、国際的な語学力やコミュニケーションスキルも必要になるのです。
仕事内容
- 知的財産に関する特許庁への申請
- 権利化のための書類作成
- 知的財産に関する紛争解決
- 知的財産に関するコンサルティング
年収の目安
- 600万円~800万円が目安
- 経験や実績によっては1000万円を超える年収を目指せる
- 未経験の場合は年収450万円程からのスタートとなることが多い
転職のメリット
- 福利厚生が充実している
- 高収入を目指せる
- 独立というキャリアプランを描ける
転職で求められるスキル
- 弁理士の資格
- 書類作成能力や契約締結能力
- 法学に関する知識
- 最新の技術や研究に関する情報収集能力
- コミュニケーションスキル
- 語学力
学校薬剤師
学校薬剤師とは、大学以外の学校に配置される薬剤師です。学校保健安全法によって、大学以外の学校(幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、高等専門学校)に学校薬剤師を設置することが義務付けられています。認定こども園にも同法が準用されています。
学校には児童・生徒の健康を守るためにさまざまな医薬品が常備されています。ところが昭和5年に小樽市で、風邪の症状を訴える児童に対して解熱剤「アスピリン」を服用させようとしたところ、誤って毒薬である「塩化第二水銀」を服用させ、児童が亡くなるという事故が発生しました。この事故をきっかけに、学校には医薬品のプロフェッショナルである薬剤師を配置することが義務付けられました。
学校薬剤師になるには、学校薬剤師の募集に応募する方法があります。また地域の薬剤師会からの推薦を受け、教育委員会から学校薬剤師として任命されるという流れもあります。
日本薬剤師会、都道府県薬剤師会、地区薬剤師会に所属することで学校薬剤師募集の情報を得られますが、募集自体があまり多くないことを理解しておきましょう。学校薬剤師が所属している薬局に就職し、任命を待つという方法もあります。
学校薬剤師は、学校に常駐しているわけではありません。薬局や病院に勤務している薬剤師が、兼任として学校薬剤師の業務を担当している場合が一般的です。必要に応じて年に数回または月に一回ほど学校に出向き、下記の仕事を行います。
仕事内容
- 学校環境衛生に関する検査・助言・指導
- 児童・生徒の健康相談・保健指導
- 保健室や理科・化学実験室などにおける薬品の使用・保管における助言・指導
年収の目安
- 学校薬剤師としての年収は、10万円~20万円が目安
- この目安より低い収入の場合もあれば高い場合もある
- 一般的には薬局で働く薬剤師が学校薬剤師として任命されるので、この収入のほかに主たる職場からの収入がある
転職のメリット
- 薬剤師としての知識を活かせる
- 主たる収入とは別途、学校薬剤師としての収入を得られる
- 児童や生徒と直に接し、やりがいを感じられる
- 子どもの健康をサポートできる
- 学校の安全な運営をサポートできる
転職で求められるスキル
- 薬剤師の資格(必須)
- 環境衛生のための衛生化学の知識
- 教育にふさわしい人間性
- 教育に関する正しい理解
- 教育に関する講習会や研修会への参加
その他の異業種転職先
薬剤師のその他の異業種先としては、以下が挙げられます。
- メディカルライター
- 医学や薬学関連の記事執筆や監修を担当します。薬剤師の副業としても人気です。
- ヘルステック企業
- ヘルステックとは医療とテクノロジーの力を合わせ、健康促進や病気予防を目指す企業です。薬剤師としての知識や経験を活かし、ヘルステック企業での商品・サービス開発などに携わるというキャリアプランもあります。
薬剤師の異業種転職について、薬剤師としての知識や経験、資格を活かすことのできるキャリアプランを解説してきました。ただし、薬剤師の異業種転職は難しいとも考えられています。
次章からは薬剤師の異業種転職を成功させるために理解しておきたいポイントを解説していきます。
薬剤師の異業種転職が難しい理由
薬剤師が異業種転職を目指すとき、ハードルが高くなる原因には次のようなことが考えられます。
薬剤師の実務経験が必要なことがある
異業種転職といえど、薬剤師としてのある程度の実務経験が求められることがあります。たとえば調剤薬局やドラッグストアから製薬会社のCRCや品質管理・保証への転職を希望する場合、調剤経験を求められることがあります。キャリアプランによっては薬剤師としてのある程度の経験やスキルが必要になるというわけです。
そのため、薬剤師としてのキャリアが浅い場合や調剤経験がない場合は、転職活動がスムーズに進まないおそれがあります。
異業種転職は年齢が上がるほど難易度も上がる
異業種転職は、同業種転職や同職種転職よりも成功率が下がりやすくなります。特に年齢が上がるほど転職の成功率は低くなります。
薬剤師の場合、2006年から薬学教育が6年制になりました。薬剤師の資格を取得するには、学部で最低でも6年間の勉強が必要です。薬剤師として社会人デビューした時点で、20代半ばに差し掛かっていますので、転職を検討するタイミングが30代を過ぎていることも少なくありません。
ただし近年は従来と比較して、30代以降でも転職しやすい社会になってきました。薬剤師としてご自身がどんな経験を積んできたか、これからどんなキャリアプランを歩んでいきたいかをしっかりとアピールできれば、異業種転職を成功させることは十分に可能です。
異業種転職で年収が低くなることがある
薬剤師は年収が高い職種であるため、異業種転職によって年収が下がることもあり得ます。特に未経験の業界や職種での異業種転職の場合、収入が一時的に下がることがあるでしょう。そのため、「年収がさがるならばやっぱり転職はやめよう」と思い留まる薬剤師もいます。
ただし、MRや医療コンサルタントのように歩合制や成果報酬型の企業であれば、実績次第で収入が大きく上がる可能性もあります。公務員への転職では毎年昇給がありますので、長期的に見たときの収入が薬剤師で働いていた場合よりも高くなることも期待できます。
また、年収だけが転職のメリットではありません。どんなやりがいを感じたいか、キャリアプランやライフスタイルをどのように描いていきたいかも考慮して転職を検討しましょう。
薬剤師の経験や知識を活かせる求人が少ない
薬剤師の代表的な就職先である調剤薬局とドラッグストアの求人は、他の専門職と比べると多めです。近年は特にドラッグストアの求人が増えています。そのため薬剤師が異業種転職する場合、ご自身の経験や知識を活かせる求人が少ないように感じられることがあります。
たとえば製薬会社や大学教員の求人は少なく、競争率が高いのが特徴です。求人数が少ない異業種転職を成功させるためには、薬剤師として働きながはキャリアを積んだり、資格試験にチャレンジしたり、転職の対策をしっかりと準備しておくと安心ですよ。
薬剤師の異業種転職を成功させるために必要なことって?
薬剤師の異業種転職はさまざまなキャリアプランがある一方で、転職を成功させるにはしっかりとした準備や工夫が必要です。
- 薬剤師としてある程度のキャリアを積む
- 年齢制限のある職種は早めに転職準備を進める(例:公務員試験の受験資格)
- 転職に役立つダブルライセンス取得を目指す
- コミュニケーションスキルや事務スキルを磨いておく
- 複数の転職支援サイトに登録する
- 転職エージェントを利用する
働きながら転職準備を進めるのはなかなか大変なこともありますよね。転職支援サイトや転職エージェントに登録すると、企業研究や履歴書作成などをサポートしてくれます。効率的に転職活動を進めたい薬剤師は、こうした転職支援サービスを活用するのもおすすめです。
おわりに:薬剤師の異業種転職のキャリアプランは豊富!
薬剤師という職種は年収が高めでやりがいもある仕事ですが、異業種転職することによって年収アップややりがい発見を叶えることもできます。異業種転職へのチャレンジに不安や難しさを感じたときは、転職支援サービスを活用してみてはいかがでしょう。手厚いサポートで納得いく転職活動を進められるようになりますよ。
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